Chapter 04

「自他と向き合う」経営理念

1章では経営理念の一つである「性善説経営」について触れましたが、強い自立心、フラットさ、そしてレールを敷かないといった山本さんの価値観や考え方が見えてきたところで、改めてそれらを基に生み出された企業理念や福利厚生制度について深掘りしていきたいと思います。

まずは相手の側に立つというスタンス

仕事とプライベートを明確に分けて仕事はお金を稼ぐ場所としその他で人生を楽しむ、という考え方もありますが、山本さんご自身は公私融合とのこと。仕事を通して人生を楽しむ、仕事は自分が納得のいく人生を送るための成長の場という考え方をされています。こういった考え方が根底にあるため、採用や社員面談の際には相手の人生全体を見据えての話を聞くのだそう。

「経営者の人生にとって会社は100%でも社員にとっては人生の中の一部でしかないよね。責任の度合いや働く目的が違うから当然なんだよ。だからまずは相手の側に立ってみて見ている方向を合わせ、人生どう考えてるの?その上で仕事はどうする?と、相手の人生全体を考慮して話さないとどこかでミスマッチがおきるはず。例えば、独立志向があるのか一生同じ会社でいくのか、20代ならひとつの職種を極めたいのか色々経験したいのか。女性ならば仕事人生を進みたいのかいつかは家庭に入りたいのか、とか。今では聞いちゃいけないようなことも聞いてたかもね(笑)(山本談)」


会社側がポジションに見合う人物像を想定し、そこに最適な人材を採用するのが普通ですが、ここでも社員側の立場に寄り添ったフラットな視線を感じます。

会社は人生を演出するための舞台、踊るのは自分

過去に採用面談の段階で、入社後すぐに出産と産休が確定している女性が応募されてきたのですが、ウソなくホンネで対等に話せる正直さが理念にマッチしていると感じたため、山本さんは採用されました。その方は、いつも言うべきことをまっすぐに伝えてくださる方で、お仕事への向き合い方にも熱量と向上心が溢れています。採用してくださった昔の山本さんにタイムスリップして感謝の気持ちを伝えたいほどです。

スキル採用であれば力不足やミスマッチが起きた時点で転職ということになるのでしょうが、理念や社風にマッチしていれば配置転換や職種転換などすることで、その社員が息を吹き返すこともあるのだと思います。社員のみなさんを見ていても、自らのやりたいことと活かせる場を考えてガラッとポジションチェンジされる方や、新しい役割を自ら作っていかれる方も少なくありません。


2012.01
ビットリンクで遊ぶ


「気持ちよく働ける場所をつくるのが経営者の仕事。働いて給料を得るだけの場ではなくて、その人が自分の人生を正しく楽しめるような場であれば、結果的に会社に戻ってくるものも大きいからね。会社を舞台とみなしたとき、どんなシナリオを書いてどう役を演じるかは自分次第。俺もこの会社を通して成長させてもらったし、仕事人生でいちばんいい時期を楽しませてもらったからね。(山本談)」


このように会社という環境を存分に活用し、「もしうちの会社でできること、やりたいことが本当になくなったら、その時は卒業していってもいいんじゃないか」とも仰っていました。経営者にとって、会社を維持するためには社員になるべく辞めてほしくないものだと思うのですが、この言葉を聞いて「個人の自立や成長のために会社を活かしてほしい」というのは山本さんのホンネなのだなと感じました。

自分たちのやり方が、ビジネス社会で成り立つことを証明する

これは、よくある普通の、一般的な、正攻法なやり方ではなく、「自分たちの価値観で、自分たちが良しとしたやり方でやる。そのやり方で利益をあげて企業として成立させる。そのやり方でなければ儲かっても意味がない」という、決意表明に似た理念です。性悪説前提のビジネスの厳しい世界でそんなあまっちょろいやり方が成り立つのか?相手を信用するのはいいけど裏切られたらどうするの?自由を与えるのは簡単だけどそんなんで社員が成長できるの?などと、聞こえはよくても結果がともなわなければただの理想論・・という声が聞こえてきそうです。山本さんの意地のようなものも感じますね。


2016.11
自分たちの食い扶持は自分たちで稼ぐ


当時採用活動で使っていたキャッチコピーに「上場は目指しません。平和な職場でホンネと誠意とマイペース」というものがあります。外部の資金や外部の助けは使わないで、自分たちの力でやる。自分たちのやり方でやる。という意味が込められています。そもそも、会社を有名にするとか大きくするとかいうことでなく、仕事人生を楽しいものにするために会社をつくったわけで、他者の助けを借りて成功できても意味はなく、達成感を感じることもありません。これはいまでも社内にはっきり存在している価値観でもあります。

「働き方革命」でなく「働き方解放」

信じて任せるという性善説での会社運営は当時あまり一般的ではなかったと思いますが、これがベースにあるからこそ社員の裁量に任せた自由な働き方を推奨したり、「自分の興味や得意、ニーズに合わせてどんどん会社の外に出ていこう!」なんてことを社長自ら社員に向けて発信したりできるのだと思います。世間の当たり前に合わせるのではなく、自分たちがどういう働き方を望んでいるか?本当に効率の良い働き方は何か?を考えた末生まれたもの。結果的に今でも根付いていますし、社会的にも自由な働き方が注目される時代になっていますね。

「日帰り温泉のチケットを会社に置いて自由に使っていいよ、としてこともあったね。自分も気分がのらなければ会社から出て海や図書館で仕事してたしね。たとえばデザイナーみたいな想像力が必要な仕事をする人が終日パソコンの前で仕事してても良いアイディア浮かばないんじゃないかな。上司が部下の仕事を適正化できるなんて考えるのはおこがましくて、一番成果をだしやすい仕事のやり方は本人が一番よく知ってるはずでしょ?管理主義って管理する側の思惑があるから、される側からしたらどこか不自然なものになる。

世の中や人間って、進歩すればするほどより自然な方向にいくはずで、うちはその自然なやり方を自然にしてただけ。「働き方革命」なんて大げさな言い方でなく「働き方解放」でいいのでは?会社経営の仕方自体も同様に、これからは更に自然な方向、性善説前提の方向へ向かっていくんじゃないかな?(山本談)」



2011.03
合わせない。自分のスタイルで仕事する。

選択の基準 結果より過程

会社は利益が出ないと経営を続けていけないので、過程よりも結果を見ることが多いと思います。また、何かを選択する際にもリスクがどの程度あるか、見合った結果が確実に出せるのかを重視するでしょう。特に会社での立場が上であればあるほどその傾向が強いように感じますが、山本さんの考えは少し違うようです。

「例えばテニスの試合でもプレーの内容が良ければ負けても楽しかったと思えるし、自分の思うようなプレーができなければ勝っても満足できないんだよね。仲間との麻雀でも同じくで、耐える場面で耐えられたか、攻める場面で攻められたか、自分との勝負がまずあって相手との勝負はその次。だからたいがい負けるけどね(笑)コンペで負けたら売上にならないからもちろん悔しいんだけど、その過程でなぜ負けたかを考えるから次に繋がるんだよ。結果よければ全て良しとは思わない。結果を喜ぶより過程を楽しむ。経営者としてはどうなのかわからないけど、この20年間過程はちゃんと楽しめたから満足してるよ(山本談)」


社員のみなさんを見ていると、挑戦した結果うまくいかなかった時に、原因はこれだったから次はこうしよう!と前向きに次の挑戦に活かそうとされる方が多いです。そして周りも、次はもっとうまくいけそうだね!という空気感。確かに結果を出すことは会社経営において大切なのでしょうが、この過程を重視して楽しむ姿勢が根付いているからこそ、どんどん前向きに挑戦できる環境が育まれているのではないかと思います。

「瞬間的なものでなく蓄積されるもの、華やかで目立つものでなく地味で目立たないもの、一発大儲けでなくちょっとずつでも続くもの、隙間マーケットでなるべく気づかれないうちにシェアをとる。そういうやり方が好きなんだよね。(山本談)」



2019.05
蓄積型の人生を

依存関係から脱却する

ビットリンクは当初ホームページの制作を事業の柱としていましたが、WEBシステムの受託開発型事業、さらに自社製品(Choiceシリーズ)の開発と販売と、徐々に受託系の業務から自社製品にシフトしてきた経緯があります。いまでは完全に自社製品でのビジネスモデルとなっていますが、変遷してきた過去の決断には理念が背景にあるはずです。そのきっかけとなったできごとを聞いてみました。

「東京に進出する前の2006年ごろだったか、発注元の企業は社会的にも注目を浴びてた質の高い会社でね、担当の方とも意気投合しプロジェクトの成功に向けてワクワクしながら要件定義や見積を進め、他社に勝って発注がほぼ決まった。ところがその直後、はじめて出てきたその会社の役員の方から、根拠もなく一方的な減額要請を受けたんだよね。これだけお客様の側に立ってコストをギリギリまで詰めてきたのに鶴のひと声で水の泡か?と悔しかったよ。(山本談)」


山本さんはこの仕事をお断りしました。相手があわてて減額要請を取り下げてきてもこのお仕事は受けなかったと。プライドですね。自分のプライドもさることながら、この仕事を技術者に任せることは技術者のプライドも傷つけるような気がしたとのこと。この時山本さんは、発注側が上にいて受注側が下であるという、主従関係の中での仕事に強い違和感と限界を感じ、依存関係から脱却すること、すなわち自社製品でのビジネスモデルにシフトすることを決めたそうです。


2019.03
ルールは自分で決める


またこの時期に、別のプロジェクトから数百万円規模の見積もり依頼がありました。当時のビットリンクでは利益効率がちょうど良い価格帯だったので本来は喜ぶべきでしたが「ああ、またこれをやるのか・・・」とその瞬間に感じてしまったそう。 「ここのままこれを繰り返してるだけでは進歩がない。なにより楽しさを感じられなくなっている。利益はでるから食い扶持を自分で稼ぐということに違いはない、でも自分や自社が成長しているという感覚や充実感が無いことをずっと続けるのは無理だと感じたんだろうね。これは永遠ではないと(山本談)」


これらのできごとを契機に、受託開発のビジネスから離れて、現在のChoiceRESERVEの開発・販売に集約されていきます。

このころのスローガン「自家発電企業の陰と陽」。人的リソースを一気に自社製品開発に傾けていった時期ですが、会社を支えていたのはまだまだ旧来からの受託開発のお仕事でした。自力で稼いだお金で開発投資する当社では、光が当たりにくいけど大事な仕事をしているスタッフもいるんだ、というメッセージだったんだと思います。


2013.03
自家発電企業の陰と陽

3つの福利厚生制度

ここまでは会社の理念について触れましたが、最後に3つの福利厚生についてお話しします。いずれも山本さんご自身があったらいいなと思ったもので、自分が社長権限で使ってみて自分だけでは不公平だから社員全員が使えるようにするといいのでは?と気づいて生まれたものとのこと。一つずつ見ていきましょう!

1. リラクゼーションの日(自分へ)
こちらは、座り仕事や頭脳労働、頑張って疲れた身体を定期的にケアできるように。と生まれた制度です。年6回利用できるもので、整体やマッサージ、ジムなどでリフレッシュすることができます。利用範囲は広く、これで銭湯に通われている方もいるのだとか。デスクワークがメインになりがちなIT系の企業にとって嬉しい制度です。私も毎年上限いっぱい活用しています。

2. 飲み代半額制(仲間へ)
社員同士のコミュニケーション促進やチームワークの下地づくりを目的として歓送迎会や忘新年会、社員旅行のような定例行事を行う会社は多いと思いますが、この会社には定例で行われるイベントはありません。その代わりに、日常での社員同士での食事や飲み会の代金を半額、しかも回数無制限で会社が負担してくれるというふとっぱらな制度があります。会社のイベントを形式的なものでなくより実効性のあるものにしたい、ホンネで語り合える場を作るために活用して欲しいという想いが込められています。

「定期的で必ず全員が参加するイベントではそこに意思のない人も来ることになる。不定期にいつでも有志が声を発して行うような実のあるものに変えたかった。(山本談)」


とのこと。入社式やお別れ会など、儀礼的な行事が好きではないという山本さんらしい発想ですね。


2011.01
形式張らない。体裁より本質で。


型にはまった形式的なものが大嫌いな山本さん。世間体や形骸化した常識はナンセンス。本質的なものだけを残していこうというメッセージです。実際に福利厚生制度にも反映されていますね。

3. 親孝行の日(家族へ)
これはおそらく3つの中で最も珍しい福利厚生ではないでしょうか。年間3万円を上限に、両親との食事や旅行の費用を負担してくれるという制度です。山本さんの親御さんが浜松から東京オフィスを見に来られた時に、一緒に巣鴨へうなぎを食べに行くタクシーの中で閃いたとのこと。

「親は子供がどういう会社に勤めているか気になるものだよ。うちは有名企業じゃないから尚更だよね。福利厚生をネタに親に会って、会社のことを直接話す機会を作ってあげれば両親の安心感に繋がるかもしれないと考えた(山本談)」


飲み代半額制と同じく「こういう制度があるから今度食事でもしようよ!」と、親とコミュニケーションをとるきっかけになります。社長の責任範囲はその会社の社員までと思っていたのですが、社員はもとより更にその先にいる家族のことまで考えられているところが素敵です。

これら3つの福利厚生制度ですが、自分だけでなく、自分・仲間・家族という、「他者との関わりのなかでの自分」を意識しよう、という考え方が背景にあると思います。「心理体」では自分自身の中でバランスをとるということ、福利厚生では自分・仲間・家族という集団の中でバランスをとるということ。常にバランスを大切にされていることが見えてきますね。

会社設立10年後にはじめてまとめた企業理念