Chapter 06

残らないという選択

1章では経営理念の一つである「性善説経営」について触れましたが、強い自立心、フラットさ、そしてレールを敷かないといった山本さんの価値観や考え方が見えてきたところで、改めてそれらを基に生み出された企業理念や福利厚生制度について深掘りしていきたいと思います。

まずは相手の側に立つというスタンス

会社が安定し落ち着いてきた2017年頃、49歳の山本さんは会社を退くことを決断します。最後の章では、まだまだ働き盛りのご年齢ながら退任されることを選択した背景や、これからの世代に対して思うこと、山本さんご自身の今後についてお聞きしたいと思います。一個人としての自立だけでなく、法人としてリザーブリンクをビジネスの社会で自立させることを目標とし、その両方を成し遂げた山本さん。次に向かう先はいったいどこなのでしょうか?

50代がITベンチャーのトップに座っていてはいけない

これまでの人生で、恩師や身近な先輩などに限定されず業界の著名人やシンパシーを感じる文化人など、さまざまな他者からのエキスを吸収してこられた山本さん。反面教師として、オーナー社長が老害に気づかず会社に居座り、自ら会社を衰退させている例をみていたことからも、50を過ぎてIT企業のトップにいてはいけないと感じていました。東京へ出た40歳を過ぎたころには既に、まだ会社がこれからという時期にもかかわらず社員にもそのことを伝えていたそうです。

頭脳、体力、事業意欲と心理体のすべての面で30代の起業時とは劣化していると自覚したこと、会社の安定度や完成度、さらには次に託すメンバーの年齢と人生までも考えたそうです。また、40代回収期としての創業者利益の数字、50代の満喫期からはまた別の人生を創っていきたいという人生プランもあり、退任のタイミングは会社の行く末とご自身の人生とをトータルで考えられた上での判断だったようです。

また、0→1が好きで得意と自負する山本さんは、逆に1から10にもっていくことに対してはモチベーションも自信も湧かなかったのも事実だったそうです。東京進出当時の「社員30人売上5億」という会社のイメージをほぼその通りに実現されましたが、その先のイメージがはっきり見えてこなかったことも決断される大きな要因だったとのことです。「大きなことは言いません」という言葉を残された山本さんならではの、ご自身を客観的に見るバランス感覚からの判断だったのかもしれませんね。

ビットリンク会社パンフレットより

10年ごとのテーマを決める

リザーブリンクが会社として新しい道を歩んでいくように、山本さんご自身もこれから新たな人生を創っていかれることになります。起業するところからその会社が成長して社会に認められるまでを見届けるという、さながら子育てのような大仕事を終えた先に、山本さんはどのような未来を描かれているのでしょうか。

以下は山本家未来年表(3章参照)にみる、ご自身の10年ごとのテーマだそうです。こんな風に中長期で自分の未来を考えて、年代ごとにテーマを設定し明文化されてるところが興味深いですね。


「これは東京に出る前の30代後半の時期にはじめてつくったから20代のところは振り返りだね。試行錯誤してた時期は将来設計なんかしてる余裕はなかったし、自分のことで頭も心もいっぱいいっぱい。でもある程度カタチになって自己実現ができたあとは、それまでにもらった分を独り占めするんでなく、周りにシェアしたり社会に戻していくのが筋だと思うようになってきた。人間、自分の欲を満たしつつ健全に成長した先では還元することが欲になるのが自然なのかもしれないね。

あと、決めたことを表に出すことはそれを実現させるためのテクニックとしてよく言われてるけど、実際あると思う。イメージできたものは言うなり書くなりで表に出していった方がいいと思うよ(山本談)」


社長を退任したら気持ち的には一息つきたくもなりそうですが、いざ退任された山本さんにお会いしてみると、言動がもう未来へ向かって進まれていて、「あまり退任した人っぽくないな」と正直思いました(笑)。人生に年代ごとのテーマを設定されているからこそ、今の時間をどう使うかがご自身の中で明確になっているのではないかなと感じました。


2011.05  
1)決断、2)宣言、3)実行!




以下はインタビューの内容をそのまま山本さんの肉声で紹介していきたいと思います。
実際に会社を離れてみて感じたことや気づきなど。寂しさはなかったですか?

20代はそれまでに積んだものを次々にゼロクリアしてきた。ゼロにしないと新しいイチが始まらない性格だと思うし、逆にいえば何かを手放すことで新しい何かが始まることは経験則として知っていたからね。もちろん20代の頃の「盲目であるが故の強み」はもうないわけで、「知っているからこその弱さ」がある。寂しくないと言えばウソだけど、人生味わいたいという体験欲の方が勝ってるんだと思うよ。

退くことを決めた時には自分がしてきたことに対する達成感というのは無かったけど、実際に手続きをして会社を抜けてから達成感がじわじわ滲み出てきたかな。20年で会社の価値を100倍にして外に売るのでなく内につなげた。人生6割主義の自分としてはまぁ合格かなと。外に売れば金銭的な資産は上げられたかもしれないけど、人的資産は減っていたかもしれない。

これからも細々とだろうけど、ビットリンクの理念を嗣いでくれたメンバーとはつながり続けたいし、そうなると思ってるよ。それも大事な資産だからね。

ご自身の自立、そして会社を法人として自立させることに成功した山本さんが次に考えているのはどんなことですか?

ありきたりだけど、若い人たちを支援すること。能力と体力と意欲があって、経験とお金と人的基盤がない人をフォローすること。興味のある領域のベンチャー企業にハンズオンでエンジェル投資をしたり、お金は関係なくても面白そうな次世代の事業や若い経営者に関わりをし始めてるよ。

この20年間で、会社を興し、製品をつくり、社会に認めてもらう、ということを一通り体験できた。同じ期間で考えれば次の20年の終わりは70代。その先でもう1回はないからね。ここから始めることはライフワークと呼べるものになると思ってる。世の中に戻しつつ自己の成長も得られるもの、日々の生活に充実感を得られるもの、しかもこれまでに経験したことのないもの。しっくりくるものはそう簡単には見つからないだろうけどね。

ただ地球の問題は避けられない。地球が壊れたらビジネスどころじゃないからね。永遠に続いて欲しいと考えたら、自分たちが死ぬまででいいやって考えはマズイだろ。ひとりの人間ができることは知れてるけど、産んでもらった親に戻すのと同じく、地球にも戻すべき。地球に影響与えるほどのことはできなくても、考えることと実際に動くことが筋かと思ってる。

山本さんにとって充実感(幸福感)とはなんでしょうか?

海外に出るたびに必ず本屋さんに寄ってみるんだけど、どの国にも自己啓発の本棚があってWhat makes me happy?みたいな本が並んでるんだよね。万国共通で人間にとってシンプルだけど難しい永遠のテーマなんだろうと思うよ。

マズローの欲求5段階説には実は6段階目があったといわれていて、1段階の生理的欲求からはじまって5段階目の自己実現欲求まではすべて自己の範囲内で定義される欲の話しだよね。ところが6段階目は「自分が属するコミュニティの幸せが自分の幸せである」という、他人を含めた中での自分という定義をしている。冷戦時代のアメリカ人であるマズローさんは、6段階目のこの利他的な主張が共産思想に触れる可能性があり、封印したそう。ただ今の時代には6段階目に達して活動している人はそこそこいるでしょ。

マズロー説は人間の摂理・法則なわけだから、段階を登っていった先では利他的な振る舞いが自分の幸せに繋がるということは、人間本来の自然な姿なんだろうね。

では山本さんにとって仕事をする意味とはなんでしょう?

大学時代のバイトは別として、社会に出てからというもの「働いている」という感覚をあまりもったことはなくて、「仕事」というワードもピンとこなんだよね。自分が成長できると思えることや、面白いと感じられることしかしてこなかったつもりなので、仕事というより「活動」という言葉の方がしっくりくるかも。仲間に「最近おまえ仕事してる?」と聞かれるのが一番困る。いつも仕事してるとも言えるし全く仕事していないとも言えるし・・(苦笑)

いまの時代、生きるため食うために仕事をする時代ではないでしょ。石器時代はまさに食うためにだけに毎日動いてたし、江戸時代は生まれた瞬間からその人の仕事は決まってて選択肢は無かった。いまの時代は食うためだけならいくらでも仕事はあるし、職種の選択肢もひとつふたつではないよね。自分がしたいことなのか、できることなのか、そこから生み出す価値、家族に誇れること、社会的な意味、いろんな視点から仕事を選ぶことができる時代になってきてる。もちろん最初は生活のためにで始まるんだけど、しだいに自己実現のため、最終的には自分を含むコミュニティ全体のために活動することが、本質的には自分の満足や充実感や幸せにつながるはずなんだよね。

だから、人生を長期にかつトータルでとらえて、どんな仕事人生を送れたら一番幸せなのか?自分にとって大事な価値は何か?を、他人との比較でなく、自分の頭で、自分オリジナルでちゃんと考えてみる。その上で仕事や会社を、そもそも生き方自体を選んで欲しいよね。



2016.09
他人のものでない、自分の人生を生きよう

成功したという実感は無いとのことですが、山本さんにとっての「成功」とはどんなことですか?

一般的にはお金と時間を手にしたら成功者と呼ばれてるけどその実感はないね。そもそも成功の定義も人と違うんだと思うよ。成功って、一般的にはなんらかの形があってそれを得た人が成功者といわれるよね。それは点のイメージ。俺にとっては点ではなくて線のイメージなんだよね。その1日がゴキゲンだったかイマイチだったか、1日ごとに○△×みたいな自己評価を日々記録してるんだけど、トータルで○が半分以上あれば成功といえるかもしれない。その1日に納得できる充実感があったかどうか、その1日の連続が人生だよね。だから死ぬ間際まで成功かどうかは判定できないんだと思うよ。

よく口にされる「生命力を養う」ということについても教えてください。

いまの時代、国も会社も、場合によっては家族でさえも、自分を守ってくれる人はいないよね。自分のことは自分でするが基本の世の中です。 (1)他人との関係性でなにかと負荷がかかりやすい中で何があっても心が折れないこと。 (2)知識でなく知恵を活かして自分の頭で考えられること。 (3)薬や治療という外部からでなく自己免疫力で健康体を維持すること。 これら心理体すべての面での総合力を生命力と考える。

例えば病気。コロナみたいな外部からくるものと癌細胞みたいに自分の体からでてくるものがあるけど、心の強さ弱さと自己免疫力は相関してるし、玉石混交の情報の中から正しい情報を取捨選択する頭がないと自分の身体も守れないよね。なんだか悲壮感漂う話になってきたけどそうでもなくて、最低限の守備力を備えた上では攻撃型の人生をいって欲しいんだけどね。守ってるだけの人生じゃ楽しくはないでしょ?生命力を整えて、自分の人生は自分で切り拓いていって欲しいです。

最後はもてるもの使い果たしてぱたっと死にたい・・というのはどんな想いなのでしょうか?

人生の上り坂と下り坂、その頂点がどこにあるかはその人次第。10代で頂点を迎える人もいれば頂点が無いまま死ぬ人も稀にいるからね。頂の点にぶら下がる人生でなく、やったことないことをやっていける人生。Y=1/20xくらいでもいいからこの先もちょっとづつ登っていきたい。

そして最後はいい具合に使い切る。財産や肉体や知恵とか自分が持ってるリソースをなるべくゼロに近いとこまで使い切ってぱたっと死ねたら幸せでしょ。逆に言えばそれらを持った状態で死ぬのはもったいなくて、使えばよかった・・・って後悔を生むのでは?どう死ぬかを意識することは、死ぬまでの人生を生きたものにするためのライフスキルでもあるかもね。



2014.01
選択できる幸せ

これからの若い人たちになにかアドバイスがあればお願いします

いま自分の持ってる力は100%出せてますか?出し惜しみしてませんか? 先天的に持ってるものは人により差がありそこに優劣はない。ただのスタートライン。そこからどれだけ高められたかがその人の価値。元々力があっても出し惜しみしてたらマイナスだしカッコ悪いだけ。100%出せる環境に身を置くこと、それ自体に筋力がいるけど

起業に向くタイプ向かないタイプがあるから人によりカタチは違うはずだけど、ただ自分の持ってる力を100%発揮できる環境に身を置いて欲しいね。他者と比較した自分でなく自分と比較した自分であるべき。オリジナルの人生は責任やリスクを伴うけど、その分他者と違う喜びやリターンも大きく味わえる。たとえそれで失敗したとしても後悔はしないと思うよ。

“前例”や“常識”の価値が相対的に低くなる、時代の変わり目ってのはチャンスなんだよね。インターネットが世に出だした2000年前後から世の中の変化は一気に加速した。そのタイミングでその領域で起業したから、時流にも乗り自分の力以上の成果が得られたんだと思う。 そしてこの2020年前後はコロナショックで生活様式や人の価値観、学び方、働き方、遊び方が、そもそも人との関わり方も大きく変わろうとしている瞬間だよね。良くも悪くもだけど、前例が通用しなくなり、新しい価値が認められやすくなってくる。こういう時期に何かコトを興せる人は次の数十年、自分でも想像できないような成長をしたり成果を得られたりと、刺激的な日々が待っているんじゃないかな。



2017.03
冒険しないと飛躍しない

お話を伺っていると経営者という立場は本当に大変なのだな...と感じました。それでも経営者になることを目指す人たちにひとことお願いします。

経営者は判断することが仕事。判断までのプロセスには色んな人が関わっても、最後の判断は自分ひとりでしなきゃならない。複数人で決めることって保守的でありきたりなものになりがちで、ゆえにオリジナリティも他社との競争力もない。真剣勝負の連続だから考えることや責任も大きいけど、でもその分味わえる感覚や体験できる幅や深さが人と違っていて大きいんだよ。トップだからこそ会える人やその相手との深い会話、トップだからこそできるチャレンジと成功体験、逆にそこからの失敗も体験することができる。絶対値が大きいんだよね。他人が決めたルールに人生を任せるのでなく、自分でルールを決めていきたい人に経営者はおすすめです。

ただ誰からも褒めてもらえないから覚悟してください。人間だれでも年取れば守ってくれる人が減り守るべき人が増えてくるもの。最後は親をも守る側になるわけで。スタッフに子供が生まれるたびに肩こりが増してたな(笑)自分に厳しすぎても続かないから、もう1人の自分が自分を適度に褒めたり往なしたりできる柔軟さも必要だね。



2017.09
独りで決める

今後のリザーブリンクに想うことはなんでしょうか?

「平和な職場でホンネと誠意とマイペース」安心できる職場環境は目指していたところだけど、安定が常態化して危機感が薄れ、成長意欲がなくなった組織には今以上の発展は望めないよね。

ライフサイクルの曲線から考えれば、リザーブリンクは創業期から成長期を経て安定期に入っていく段階。創業する会社の数は増えていても会社の平均寿命は短くなってきてるよね。5年生存率40%、10年生存率10%、20年生存率0.3%と言われているなか、この会社は創立来20年を超えてきている。

ここまで存続できたからここから先も安心という保証はどこにもないわけで、寧ろ会社の負の遺産が見えにくい場所にこびりつき、気づかぬうちに新たな脅威が生まれているのかもしれないよ。外と戦って生き残った会社ではなく自己の価値観に従い自問自答しながらやってきた会社だから、崩れるとすれば内部からかもしれないね。創業者が抜けるということはまっさらの状態から造り直せるチャンス到来!「法人リザーブリンク」にとっては山本が抜ける意味はここにあるんじゃないかな?



2013.11
ゼロクリアからの再構築


山本は抜けるし、さらにはそこから嗣いだ次期経営者もいつか必ずいなくなるけど、法人としてのリザーブリンクは永遠に生き続けることができる。企業理念ってカッコよく明文化した途端にちょっと安っぽくなってしまうでしょ。普段口に出して唱えるとかでなく心の奥に留まっていて、何か迷ったときや大事な判断のタイミングでじわっと浮かんでくるくらいが丁度いいんだと思う。 会社は変わっていかなければ生き残れないけど、ちょっと違ったやり方のこの会社の根っこにある価値観が残り続けてくれたら俺にとっては嬉しいことだね。



山本さんの3Dフィギュア。「退任祝いです。」と、社員からこの写真が送られてきた山本さんはドトールで大笑いしたとのこと。白いパンツに紺のジャケットは、社員お馴染みの山本さんスタイルです。

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